2013年5月14日火曜日

印象派たちの光と色~アルルのゴッホめぐり

アヴィニヨンから日帰りでアルルとその近郊を訪ねた。

アルルはヴィンセント・ヴァン・ゴッホが1888年2月から翌年5月まで滞在し、「ひまわり」の連作など数多くの作品を描いた土地。アヴィニヨンからは車で1時間程度で着く。

プロヴァンスには糸杉が多い。道中、ガイドさんが説明してくれたところによると、糸杉はこの地方特有の強風・ミストラルから作物を守る防風林として植えられ、おかげでプロヴァンスはヨーロッパ有数の豊かな農作物の産地になったそうだ。(しかし、最近ではスペインやイタリアの安価な野菜や果物に押されて農業をやめる家も多く、糸杉だけが作物のない土地に残っていることもある。)

ローマ時代の都市だったアルルには、2000年前の劇場やコロシアムの遺跡が残っている。そんなものが街中にあれば圧倒的な存在感で、他が入る余地はなさそうだが、ゴッホのゆかりの地は大切に守られ、人々が見つけやすい表示がされている。もはやローマ都市としてより、ゴッホの街としてのアイデンティティのほうが強いかもしれない。

まず最初は「夜のカフェテラス」の舞台となったカフェ。絵と見比べられるよう、解説の絵看板がちょうどいい場所に置いてある。アルルの街中のゴッホゆかりの場所には、必ずこういう看板がある。現在のカフェは絵と同じ黄色い壁を維持し(絵では黄色いのは1階だけなのに、3階まで全て黄色くなり)、ちゃっかり「ヴァン・ゴッホのカフェ」をアピールしている。

次は、有名な耳切り落とし事件の後に入院した元・アルル市立病院。今は病院ではなくなっているが、ゴッホファンのため、彼が入院中に描いた中庭が再現されている。中庭の横のショップではゴッホグッズを売っている。


市の中心から離れたところにあるのが、「アルルの跳ね橋」。
今ある橋は、ゴッホが描いた橋そのものではない。その隣にかかっている(写真奥)普通の橋が、もともとゴッホの跳ね橋だったもの。はしけの通行量が減って、開閉式ではない橋に改造した後でゴッホの絵が有名になってしまい、「これは何か置いとかないとまずいだろう」ということになり、アルルの別の場所から同じ橋を移築してきたそう。でも雰囲気はたっぷり。絵になる。



カリエール・ドゥ・ルミエール

さて、ここでちょっと寄り道してレ・ボー・ドゥ・プロヴァンスへ。「カリエール・ドゥ・ルミエール」(光の採石場)というスペクタクルを見学。石灰石の採石場だった場所を利用し、白い大きな石の壁と床をスクリーンにして映像を投影するショー。モネやスーラ、ルノワールなどの名画や、海や宇宙の映像が、音楽とともに展開される。自分を取り囲む映像に最初は圧倒され、次にその中に浮かんでいるような気分になる。3Dなんかよりむしろ感動的かもしれない。印象派の絵ってこういう楽しみ方もあるのか…。

最後はサン・レミ・ドゥ・プロヴァンスへ。ゴッホはアルルの市立病院から、サン・レミにあるサン・ポール・ドゥ・モーゾール修道院の精神病院に自主的に転院した。そして「星月夜」などの作品を描いた。同院には今ではゴッホの銅像が建ち、ゴッホが暮らした部屋が保存・公開されているが、別棟には現在も患者たちが暮らしている。ゴッホが得たインスピレーションを感じるには、アルルの街中よりこっちだと思う。プロヴァンスの田園風景に囲まれ、敷地内の庭も美しく手入れされた病院での生活には、ユートピア的要素があってもおかしくはない。

ゴッホの病室の窓からは、鉄格子越しに緑の田園が見えた。



プロヴァンスのポスト印象派めぐりはここまで。
次はノルマンディーの印象派めぐりです。